1 「岩木山弥生地区自然体験型拠点施設整備事業」をめぐる
「お金」にかかわるこれまでの流れ

(1)用地代金の内金支払までのいきさつ

「岩木山弥生地区自然体験型拠点施設整備事業」(以下「本件整備事業」という)に関して、弘前市が用地買収にかかる契約を締結し内金2億4023万円余を支払うまで
1) 1 9 9 0 年、総合保養地域整備法(いわゆる「リゾート法」)に基づき岩木山東麓の開発を目的として第3セクターとして弘前リゾート開発が設立された。この設立に際して、弘前市は資本金のうち1億8000万円を出資した。
2) 弘前リゾート開発は、岩木山東麓の弥生地域にスキー場を建設することを計画して用地を取得し、1 9 9 4年に青森県に対して農地転用許可を申請し、青森県は農地の転用を許可した。当然ながら、この当時の転用計画はスキー場建設を目的とするものであった。他方で、弘前リゾート開発は保安林解除を県に申請し、対象地の森林の伐採などスキー場造成工事を開始した。
3) 1 9 9 5年、青森県が農水省への保安林解除申請を取り下げた。これにより弘前リゾート開発によるスキー場造成工事は中断し、以後、対象土地は森林伐採後の原野の状態のままとなった。
4) 1 9 9 6 年、弘前市は「弥生いこいの広場周辺整備計画」を撤回した。
5) 1 9 9 7 年、金澤市長が弘前リゾート開発の代表取締役を辞任。
6) 1 9 9 8 年度からは、弘前リゾート開発は期末未処理損失が資本金6債円を上回る債務超過状態に陥った。
7) 破綻しつつある弘前リゾート開発の救済に公費を用いるべきではないという多数の市民の世論が高まるなか、2000年6月議会において、弘前市は、弘前リゾート開発に対しては設立時の出資金以外の出資や損失補償・赤宇補てんなどの支出は考えていない旨の答弁をせざるを得なかった。
他方で、弘前市は、同年、「弥生地区事業検討会議」を設置して跡地利用計画の検討を始めた。
8) 2001年3月、弘前リゾート開発が会社解散を発表するとともに、保有土地について買い取りを弘前市に要請。この時点で弘前リゾート開発の負債総額は18債5300万円にものぼっていた。
9) 2001年3月、弘前市は前記「検討会議」が検討した弥生地区整備計画案の内容を市議会全員協議会で初めて発表した。これが本件整備事業に開する当初の計画案である。
10) 2001年6月、弘前市から青森県に対して弥生地区への大型児童館建設を要望。
11) 2001年9月、弘前市は弘前リゾート開発との間で土地を総額3億4319万円余で買い取る売買契約を締結、他方、弘前市議会において弘前リゾート開発所有地の取得に関する議案が可決された。その後、売買代金内金2億4023万3 2 4 8円が弘前リゾート開発に支払われた。
 上記のことから、弘前市による弘前リゾート開発所有地の買収は、リソート開発に失敗し多額の負債を負った同会社の破綻処理を援助するためのもの、実質的な負債の一部「肩代わり」であることは明らかである。

(2)用地代金の内金支払以後のいきさつ
 前述のように、弘前市は弘前リソート開発所有地の買収について、本件整備事業の用地として必要であるという名目で行っていたものであるが、本件整備事業構想は、青森県が設置する「県立大型児童館を含むこども文化施設」を中核とする構想であった。
しかし、弘前市が用地買収契約を締結した2001年の時点においても、青森県は具体的な県立大型児童館の建設計画を持っていたわけではなく、単に広く検討するとの意向を持っていたにすぎない。
 弘前市は、当初から先行きが非常に不確実な「県立大型児童館」を中核施設に据えた本件整備事業のためにその用地を取得するという名目で、前記のように用地取得の契約と2億4 0 2 3万円余の内金支払をしたのであった。
その後の経緯。
1) 2003年11月、青森県が「財政改革プラン」を策定し、「大型児童館」を含む大規模施設の着工見合わせを決定した。
2) 2004年2月、青森県議会において、県は「津軽リソート構想」の見直しを行うことを明らかにするとともに、大型児童館については「必要性や機能、規模、場所などの具体的な方向性や計画を定めるに至っていない」として事実上白紙状態であることを答弁した。
3) 2004年2月、弘前市は、県立の大型児童館建設に先行して市独自に周辺整備を進める基本計画を作成する方針を明らかにし、同年度予算に基本計画作成委託料450万円を計上した。
4) 2005年3月、前記委託に基づき「平成16年度岩木山弥生地区自然体験型拠点施設基本計画書作成業務委託基木計画書」(以下「基本計画書」という)が作成され、弘前市に提出された。
 既述のように、「県立大型児童館」の建設については青森県としては事実上白紙状態であり、本来事業構想の中核をなすはずの「大型児童館」の建設の目途が立だなくなったにもかかわらず、弘前市は敢えて、「県立の大型児童館建設に先行して」「周辺整備を進める」ものとして基本計画書を作成させた。
このような弘前市の強引とも言える進め方の背景には、事業用地の残代金を支払い用地買収を完了するためには、農地転用後の新たな事業計画の作成が不可欠であるという事情があったと考えられる。
すなわち、弘前市による2001年9月の用地買収契約によれば、
 弘前リソート開発は、農地転用後の事業計画(現在はスキー場建設計画のままとなっている)の変更申請の承認と農地法5条による農地転用許可申請の許可の後に事業用地を弘前市に引き渡し、
ii 引き渡し完了後に所有権移転登記手続を行い、所有権移転登記完了後に用地の売買残代金1億0295万7107円が支払われる、ということになっており、逆に前記iの事業計画変更申請の承認または農地転用許可が得られなかった場合には売買契約は不成立となり、弘前リゾート開発は受領済の内金2億4 0 2 3万3248円を返還する義務を生ずるものとされている。
 従って、弘前市にとって、本件事業用地の買収を完了するためには、農地転用後の事業計画の変更申請の承認とその上での農地転用許可(農林水産大臣による許可となる)を得ることがいわば至上命題となっていた。
 このような必要性に迫られていたがために、弘前市は、本来、中核施設として予定していた「大型児童館」を当面抜きにしてでも周辺施設を整備する「基本計画書」の作成を強力に追求したのである。

(3)
 以上のように、弘前市は、リゾート開発に失敗した第3セクターの破綻処理を援助するために、本件整備事業のための用地買収という名目で弘前リゾート開発所有の不動産の買収契約を締結し、2債4000万円余もの内金を支払った。
 中核施設と想定していた県立大型児童館の建設の目処が立たなくなった現在においても、不動産買収を完了するために、本件の「基本計画書」を作成させ、これを用いて農地法上の承認・許可を得て、11億円余の残代金を支払おうとしている。
しかし、これから示すように、本件の「基本計画書」に基づく本件整備事業のための用地買収残代金1億0295万7107円の支出は、違法・不当な公金支出である。

次回に続く