2.「岩木山弥生地区自然体験型拠点施設整備事業」をめぐる残代金支出の違法・不当性
1) 財政難のなかの多額の支出
(1)弘前市の財政は、この間に逼迫しつつある。「財団法人青森地域社会研究所」の報告書によると…
2001年度時点の状況として、「旧3市(引用者注・青森市、弘前市、八戸市)のなかでは独自の財政基盤は脆弱。経常収支比率も83%となり、財政の弾力性も失われつつある」「2001年の地方債残高は731億円で一般会計歳入の1・1倍となっている。これに対し、各種基金残高は61億円に過ぎない」と警鐘を鳴らされていた。
その後もこの財政難の傾向は進行しており、2005年2月の「平成12年弘前市総合計画に係る施策達成状況報告書(第3号)」によれば、2001年に約60債7000万円だった各種基金残高は2003年には約55億4600万円に減少し、他方で市民1人当たりの純債務額は2000年の40万5000円から2003年には44万2000円に増大していることが明らかである。(2)弘前市が2004年11月に発表した今後5年間の中期財政計画では、建設事業費をはじめ投資的経費を2004年度比で5割程度まで削減するほかに義務的経費その他の経常的経費等の削減を図る方針が掲げられたが、それでも基金残高は2009年には11億8 3 2 5万4000円に減少する見込みであるという。
このような厳しい財政事情をふまえて、2005年度の弘前市当初予算の編成においては、政策的経費や投資的経費についても効率・重点的な施策の選択に努め、中でも建設事業については緊急性や事業効果などを検討して厳選すること、また、国・県が補助金を打ち切る事業はやむを得ない場合を除き原則廃止・縮減すること、等を方針として打ち出さざるを得ない状況となっている。
弘前市の財政の厳しさは、市民生活の様々な局面にしわ寄せを生じさせている。
例えば、弘前市は、65歳以上の高齢者に対する市民税非課税の範囲や重度心身障害者医療費の支給対象を狭める等の市条例の改悪を行おうとしている。
他方で、廃止が決まった社会保険健康センター「ペアーレ弘前」の元利用者等多数が、その施設を弘前市が取得して活用して欲しいという要望をしているにもかかわらず、弘前市は「具体的な考えはない」旨の見解を示している。(3)本件整備事業用地買収の残代金1億〇295万7107円は、このように弘前市の財政難が進行し深刻化する状況の下で、支出されようとしている。しかも、本件整備事業のために想定されている公金支出は、前記の用地買収残代金1億円余にとどまらない。
本件の「基本計画書」においては、本件整備事業の概算事業費として総額18億6700万円もの予算をもって2006年度から2009年度までの4年度にわたり実施する計画となっている。
つまり、財政建て直しを目指す現行の中期財政計画の残りの4年の計画期間のうちに、本件整備事業のために総額約19億円の支出が想定されているのである。
先にも触れたように民生・福祉分野では市の負担を削減しておきながら、本件整備事業には巨額の公費を投入しようとしている。
後で述べるように、本件整備事業は、?方で必要性に乏しく無駄の大きいものであり、他方で土石渡災害や自然破壊・環境破壊を招くおそれのあるものである。
このような事業のために20億円近い税金を投入することは不合理の極みであって、かような事業の用地を買収するとして、1億円を超える公費を残代金として支出することは、地方公共団体の事務の基本原則として「最小の経費で最大の効果を挙げる」ことを掲げる地方自治法2条14項及び地方財政経費について「必要かつ最小限度を超えて支出してはならない」と定める地方財政法4条1項に反する違法不当な支出に他ならないのである。<次回に続く>