06年8月27日の『弥生地区自然体験型拠点施設建設予定跡地観察会(以下跡地観察会と呼びます。)に参加下さいました皆さん、本当に暑い中、ありがとうございました。
その際、陸奥新報社の記者が同行取材しましたが、途中で帰りましたし、このページに掲載してある記事も説明不足なところもありますので、記事にそくして補足しがら少し報告したいと思います。まず、観察に入る前に、「岩木山を考える会」の提案する今後「跡地」をどうするか(以下)、について… 事務局長が説明をしました。
第一は「環境評価の実施」。93年作成の弥生スキー場環境評価(アセス)は環境影響評価に値していません。なお、環境調査と評価は99年に施行された「計画」される過程に市民が参加するという新しい環境影響評価法に基づいて実施されることが重要です。第二は人工的な要素を極力省いた「里山としての自然の回復」を図ること。その基本は「自然の回復力」を重視し、本来の植生を大切にすることです。
第三は「里山としての自然の回復」を図る時には「岩木山の景観的美しさは異物のない山麓にある」を基本にすえることです。弘前から見えるこの「岩木山東麓」は昔からのものであり、先人が愛でることで残してくれた貴重で伝統的な財産的景観であります。
第四は拙速は避けることです。自然治癒力を考えれば森林復元にしても何にしても急ぐことはありません。
本会のこの意向は「環境緩和:ミティゲーション Mitigation:自然保護の技術という意味ですが…」という思想をベースにして「現状を守ることを優先する」という考え方に立っています。
ただし、やむ得ない環境緩和にも次の条件が必要とされます。
1.今ある自然を大切にします。
2.特定の種だけではなく、生物のつながりや生態系全体を復元します。
3.よその土地の種ではなく、もとあった種を回復します。
4.点の回復ではなく、空間的な生態系のネットワークを回復します。
5.人間がつくりあげてしまうのではなく、自然の回復力を助けます。
6.自然の変化をモニタリングしながら、順応的な管理を実施します。
7.行政だけですすめず、計画段階から積極的に地域の市民参加を図ります。各項目にそって例を挙げましょう。(写真1 メドハギ)
1、自然保護は性急に過去に戻すのではなく出来るだけ現状維持に努めます。
2、例えばイヌワシを保護するためには餌場となるエリア全体の自然維持
が必要とするように食物連鎖全体を復元できる施策を行うことです。
3、奥入瀬渓流の崩壊地や土砂崩れの法面緑化工事で朝鮮ヨモギを吹き付けていましたし、白神山地でも最初に行ったブナ植樹など兵庫県のブナ種苗を使っていました。これは遺伝子的には違うものに変化させてしまう攪乱破壊の一つです。ここでもメドハギ(写真1)など本来この場にない植物が工事用道路ののり面に植えられ、それが今やかなりの広い範囲で生えています。
4、そこだけ守ればいいのではなく、そこに存在した環境全体の回復につとめることです。
5、復元時に総て人間の手により「模造」するのではなく自然回復ができる段階までに留めるべきです。
6、作り放しではなく、経年の変化を観察して必要最低限度の回復の手助け
を行い自然の遷移を促すことです。
7、復元作業は、役人、業者に任せるだけでなく企画・計画段階から保護
団体も参画することで間違った方向へ行くのを正すことができます。
自然再生法ができて、公共事業に代る土木工事が増える事が想像されます。「自然再生」とか「自然の回復・復元」といって土建業者は少しでも沢山の工事費用を使おうとするでしょう。
私たちは役人を当てにしないで、無駄な税金を注ぎ込むことにも抑止力となり、注意していかねばなりません。基本は自然回復力の手助けをすることであり、総て人間が手を加えることではありません、あくまでも今ある自然を守ることが第一なのです。
実際に観察が始まりました。(写真2 エゾミソハギ)
新聞記事には観察場所を「跡地を取り囲む当時の工事用道路を一周」とありますがこれは間違いです。最後まで同行取材してくれたならこのようなミスはなかったでしょう。残念です。
実際は「隣接する昔からの雑木林(ミズナラ、コナラ、イタヤカエデなどが茂っている)」の中にも入りました。そして林の中の気温差から「木の生えている場所」と「そうでない跡地」との微気象の違い(森や林のありがたさ)を実体験しました。
また、跡地の中央部分まで低木やススキなどをくぐり抜けて入りました。ブルトーザーで表土をはぎとられた部分の植生と剥ぎ取られた泥土や岩が集積された場所の植生の違いなども観察しました。
この「跡地」が扇状地で伏流水がところどころで少量ですが湧き出しています。その小さな沢も埋められたり、そがれたりしています。そこには水がしみ出していて「エゾミソハギ」(写真2)が咲いていました。さらにその「工事用の道路」沿いに十数年前に植樹された「松」の成長具合も見ましたが、数本しか生き残っていませんし、あるものも成長がすごく遅いことにも注目しました。これは記事にある「植樹した樹木と在来種の成長の違いに驚いた様子だった」にもあてはまりますが、この記事は隣接する「いこいの広場」敷地内に植樹されたブナの成長度合いと跡地に実生から生育したハンノキなどの成長度合いにあまりの違い(ブナの成長が極端に遅い)に驚いたことをさしています。この植樹された「ブナ」が岩木山のものでなければこれだけで「遺伝子的な攪乱」の要因になります。植えた人は誰ですか。どこから持ってきた苗木ですか。
また、「工事用道路」の洗掘による崩壊・崩落状況も観察しました。場所によっては深く穿たれています。使用不能ですね。それに加えて道路沿いには不法投棄のゴミが散乱しています。
「跡地」の下方には「調整池」と呼ばれるものがあります。これは「弥生地区自然体験型拠点施設建設予定計画」ではビオトープに活用される場所でした。
泥土が縁近くで50cm以上、中央部では数メートルにもなるのではないでしょうか。そういうわけで水深はすっかり浅くなっています。水が流れ込んで来る場所近くの堆積は異常で、ヤナギやヤチハンノキが堆積泥土に生えて「半島」を形成しています。もし、土石流が発生したらこの泥土・岩石も下流に運ばれます。恐ろしい限りです。記事中の「バッタは人が歩けるような場所にしかいない」というのも、実際は「荒らされた土地・表土がはがされたり、砕石が敷かれたり、木々が伐採された場所」という意味であり、「バッタがいるということはその環境が自然的に荒廃している」「バッタは荒れた土地の指標」ということです。
写真3 ツノハシバミの実
記事ではひと言もふれられておりませんが、本会会長阿部 東が数日前に観察地数カ所に昆虫採集用トラップ数基、小動物用採集トラップを2基を設置しておきました。残念ながら、ここ数日の「好天」で乾燥がはげしくどちらも収穫?ゼロでした。ところが、「跡地」下部のアスファルト道路(上部から水が流れ出ている林の中、数カ所のあるところ)で、スジボソギンヤンマという貴重なトンボを採集しました。
その後、アケビやツノハシバミの実(写真3)も発見しました。樹木の残されているところは、立派な「里山」なのです。
なお、今回の観察会には60人の市会議員の方全員に文書を送付して参加をお願いしました。
それは「弥生地区自然体験型拠点施設建設予定計画」問題が議員にとっては重要な懸案事項(大方の計画実施賛成が全員計画実施反故に変わった)であるだろうと考え、現状の実態をしっかり「観察」した上で検討してほしいと思ったからです。本会の要望にこたえて午前の部に4人の市会議員の方が参加してくれました。午後の部にも1人参加してくれました。参加して下さった5名の市会議員の方には敬意を表したいと思います。
ある市会議員に「あと来てくれませんかね。」とたずねると「賛成と言っていたのに反対にまわったから(顔をあわせるのが)都合が悪くて来れないのでしょう。」と言っていました。そんなこと問題ではないでしょうにね。
次は9月23日に実施しますので、残りの55名の方々是非参加なさって下さい。休日ですから市の職員の方もどうぞ参加して下さい。それにしてもよく参加し、まじめに真剣に質問などしてくれました。他の参加者と同様に心から感謝いたします。これからもこの問題を協力して解決していきたいと考えています。
なお、この観察会をつうじて、本会に入会された方が数名おります。岩木山を愛し、いつまでもあるがままの姿で残していくために一緒に活動をしていきましょう。ありがとうございました。
岩木山を考える会 事務局長 三浦章男