<第6回> 「岩木山弥生地区自然体験型拠点施設整備事業」をめぐるその他の問題点 

A 自然破壊の進行上整備に不適切な地域であり「必要かつ最小限」の支出の原則に反すること

(1)本件「基本計画書」では、「岩木山弥生地区の地域性を考慮しながら、できるだけ自然地形や生態系を損なわないで(中略)施設整備をおこなうことを前提として計画の検討を行った」としている。
しかし、実際には、本件「基本計画書」に基づく整備事業によっては、自然ないし環境の破壊が進行する危険が大きい。

(2)岩木山はコニーデ型の火山であり、特にその山麓の緩やかな広がりの美しさを誇る山容を持っている。同時に、岩木山は弧峰であり山城が狭いため、局部的な環境の改変・破壊であってもその全体に深刻な影響をもたらす可能性がある。従って、岩木山についてはこれまでに壊されてきた自然を復元・復旧することこそが急務であって、これ以上の環境破壊を招くことは厳に警戒しなければならないはずである。
ところが、本件整備事業の計画総面積は約39・3μ(買収の対象となっている用地は約26・3μ)にものぼるが、本件「基本計画書」によれば、この広大な土地に岩木山学習館をはじめ、屋根付き回廊、野外イペント広場、ジャブジャブ広場、緑地広場、プレイパーク、駐車場、展望所その他多くの人工的構造物を建設する計画となっている。このように岩木山麓の広大な範囲の土地に、多数の人工的構造物を新たに造ること自体が、まずもって岩木山の自然環境に対する破壊をもたらす行為である。
例えば、前記のような人工的構造物の設置によって、岩木山を東側から望んだ際の景観に大きな傷を生じることとなることや、「多目的広場」を芝生広場として整備した場合は、従来の岩木山に存在しなかった植物を広範に移植することとなり生態系に影響を及ぼすこと等、一例を挙げただけでも、本件「基本計画書」に基づく整備事業が岩木山の自然環境に対して後代に至るまで影響しかねないことが容易に看て取れる。

(3)上述のように、深刻な自然破壊・環境破壊のおそれのある本件整備事業を進めるために、巨額の市の公金を費やすことは不条理そのものであると言わざるを得ない。それは現在及び将来の多くの市民にとって悪影響を与える可能性の大きい事業に多額の公金を支出することである。この点からも、本件整備事業の用地買収の残代金として1億円余の公金を支出することは、地方財政法4条1項にいう「必要かつ最小限」の支出の原則に反すると言うべきである。

(4)「3」の「(4)」で述べた積雪地域であること、「4」で指摘した土石流危険地域であること、及び本項で論じた自然環境破壊のおそれの問題などいずれの点をみても、岩木山弥生地区は本件整備事業で構想されているような大規模な施設を建設するに適切な地域とは到底言い難い。
何故、このような不適切な地域に、わざわざ「自然体験型拠点施設」を整備しなければならないのか。なぜ、弘前市が整備する「自然体験型拠点施設」は弥生地区でなければならないのか。「基本計画書」をみてもこの点に関する合理的な理由は見当たらない。
結局、「破綻した弘前リソート開発の所有地を弘前市が買い取る」という結論が先にあり、この結論に名目的な理屈付けをしたのが本件整備事業構想であるという他ない。

次回に続く