農民の人権、生活権をも踏みにじる、急ぎすぎのスキー場開発

2000年7月20日
鳴沢川を守る会副会長                  
スキー場拡張工事差し止め訴訟原告団代表         
青森県西津軽郡鯵ヶ沢町建石町在住  農業  
井上 祐一

話は約1年半前の冬にさかのぼります。
 鯵ヶ沢スキー場拡張計画をめぐり地元の集落を巡回した説明会は平成十年十二月、冬場に行われた一回だけで、鯵ヶ沢スキー場の齋藤計画部長も出席して地元の同意を求めるものであった。町は農業用水の確保に努めると確約。建石町では、一部反対の声もあったが、地元の農家はこの言葉を信じていた。それでも湯船集落では、猛反対の声で渦巻いたと、同じく農家の神直臣氏は報告している。
 平成十一年の春の町長選で町長は代わったが、彼は鳴沢川下流の水田地帯、浮田集落の住人。鳴沢川の水の事情は分かっているはずだと町政の運営を信頼していた。

 その後、何の水の手当もされない状態のまま、「来春から工事がされる」と聞いたのは、去年の秋のこと。町長に接見を求め問いただしたが、町長が言うには「水は無くなってから分別すればいい」と、自治体の首長にあるまじき暴言を吐き、「湯船川は関係無い」と、大鳴沢の水が湯船川に分水されている実態さえ把握していない無能な有様だった。
 これらに反発した地元有志により、急遽「鳴沢川を守る会」を組織し、状況の把握に努めた。あの田山が保安林にすら指定されていないことに憤りを感じながらも、各農家を転々と回って、署名や保安林指定の請願書を集め、青森森林管理局まで要請行動へと出た。吹雪の中を走り回り、出稼ぎにも行けない冬であった。また、この冬を通して、この拡張工事は、県の誘致する2003年冬期アジア競技大会と、かなり密接な関係にあることがわかり、木村守男県政に不信を覚えた。

 今年の春、大鳴沢の田山の森林を伐採されては生活と営農に支障をきたすとの主張も織り交ぜ、広範な市民と連携し、鯵ヶ沢スキー場拡張工事差止請求訴訟をおこした。
 工事差し止めのために事業者であるコクドを訴えることとした理由は、この工事費用は全額同社の自己資本によるものであり、同社が定める工程により工事が進められていくからだ。現実に森林を伐採されるであろう日が近づいているのだから、我々地域住民の生活を考慮し、工事は中止、中断し、企業の社会的責任を果たすであろうと考えていた。

 一方、岩木山を考える会の方々は、4月上旬、拡張予定地でクマゲラの採餌木を発見し、さらにその場から3キロほど離れた双子沼周辺からは営巣木をも発見し、事業者であるコクドが行った自然環境調査がいかにいいかげんなものであったかを明らかとした。東北森林管理局も5月末に再調査を行うこととなった。行政の調査は、拡張予定地の営巣木やねぐら木だけを探すという生態系を無視した調査で事を済ましてしまった。結果的に、森林管理局の利用許可が事業者に出されたのは6月末となったのだから、この取り組みでは、約3ヵ月の足止めをすることとなった。

 そして、7月。

 これまで、既に、二度の公判が行われたが、被告のコクドは、「我々が鳴沢川の水を使って農業をしている」ということすら、「知らない」と言っている。それでは、なぜ、地元集落の説明会にコクドの齋藤計画部長までが出席したのだろうか。
 また、答弁書や準備書面でコクドは、全ての責任を行政による許認可の問題にすり替えた主張を続け、この夏に工事を続行し、我々の訴えの意味を無くそうとしており、彼らは人権すら考慮しない卑劣な企業であるということが、明らかとされた。
 また、この間、町や県からは再度の説明会や、民事調停で事を済ますなどといった、我々への働きかけがあると思いきや、全くその動きは無い。
 水利権をめぐる開発差止訴訟は、農家の生活と人権に関わる重要な問題であり、近年の判例では奈良県吉野山ゴルフ場建設差し止め訴訟で住民が勝訴した判例もあり、私は勝訴に絶対の自信を持っており、現在、現在仮処分申請などといった法的対抗措置を検討中であります。
 株式会社コクド(事業者)は、既に7月4日から工事に入っている。世論と運動の盛り上がりで、今年の工事は何としても中断させ、今後の展望を切り開いていきたい。みなさんのご理解とご支援をお願いいたします。


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