はじめに
鰺ヶ沢スキ−場は、リゾ−ト法に基づいて岩木山山麓の広大な国有林内に用地(貸付地)が線引きされ、コクドが独占的にスキ−場やゴルフ場の開発を行ってきたものです。現在はゲレンデ面積だけでも100ha以上の大規模スキ−場となっていますが、正規の環境アセスメントは一度も実施されておりませんでした。
詳しく言うと、「50ha未満の開発」には正規の環境アセスメントは不要とされているため、事業者コクドが自主的に環境アセスメント調査を実施してきたという形をとって進められてきました。
さらに、青森県の自然環境保全審議会の委員でもある人物が、事業者が自主的に行う環境アセスメントの受注(1回につき、数百万円の調査費と言われ、現在拡張中の調査費だけで500万円程と言われている)を受け、手抜きの(簡単な)調査を実施してペ−ジ数だけを水増ししたような報告書を作成し、自ら審議するという形で数次にわたる拡張工事が繰り返されてきたのです。環境アセスの経緯
私がこの問題に関わりを持つことになったのは、青森営林局同期生だった友人(鰺ヶ沢営林署OB、鰺ヶ沢プリンスホテルに再就職)と十数年ぶりに偶然会い、定年後青森に帰ってきたことなどの近況を少し話し会ったことがはじまりです。
その翌年、5月の連休が始まった頃、突然その友人より電話があり、「岩木山の環境アセスをお願いできないだろうか?近い内に受注取りまとめ者から電話が行くだろうから詳しい話はその人物にに会って聞いてくれないか?」と、いう内容でした。
その後、その人物(高校時代に多少の面識があった)から電話があり、調査内容の説明を受けました。また、私の友人からは関係資料の貸与もあったのです。
見せられた参考資料の中には昆虫研究者として私が尊敬し、1,2回お会いしたこともある「岩木山を考える会」の会長であった正木進三さんからの質問状が出されていることを知りました。
調査を引き受けるにしても、まず「岩木山を考える会」の人たちの意見も聞かなければと思った次第です。その時点では岩木山を考える会の方では未だ具体的な計画は入手していなかったようでした。ところが現場ではすでに予定地の測量が終わり、テ−プなども張られておりました。あとは環境アセスメントの報告書を作って県の認可を受ければよいだけの計画が出来上がっていたようです。
環境アセスメントの受注取りまとめ者の説明や友人から提供された過去の報告書と参考資料など、いろいろと読んでいる内にだんだん問題点が見えてきました。環境アセスの問題点
例えば、第1回目の調査では捕虫網で蝶々を採集して採集されたリストを青森県産の蝶のリストと比較した大げさな表を添付するなどの手法で中身以上の水増しペ−ジが見られます。
実際の調査担当者が蝶に関心があれば蝶、カメムシに関心があればカメムシという程度の調査であって、ほとんどが数回の補虫網などによる採集・目撃調査であって、トラップなどの設置による定点の継続調査などは実施されておりません。また、弘前地区には昆虫の専門家がたくさん居られるはずなのに、わざわざ青森に住む私に依頼してくるというのも腑に落ちませんでした。その頃、私の健康状態も良くなかったので結局調査を辞退させて貰いました。したがって、一番大事な春の調査は行われていなかったのは事実なわけです。
私に代わってある昆虫研究者に役が回り、彼は得意なカメムシ類を中心にした報告書を書いて「調査期間が不十分であった」と書いたようですが、報告書全体の編集段階でカットされた様です。(−これが改竄問題の一部?−)
最も問題に思えたのは最終取りまとめ者の取りまとめの仕方一つでどんな調査内容も骨抜きにされる可能性があり、私が説明を受けた際にも暗に調査の手抜き(簡単な調査?)を指示されたことでした。環境アセスの課題
私は、拡張工事ならば既開発地と予定地の比較調査等による予測評価も必要だと思います。現職時代、私の所属していた研究室では八幡平北山麓(海抜700〜750m)のブナ林で、ブナ林の伐採からスギの造林地に変わっていく過程の昆虫相の変化を5年間にわたって調査担当したことがありますのでおおよその結果は予測できますが、ゲレンデという特殊な環境では現在どんな昆虫相になっているのか比較するデ−タを取るべきだと思いました。しかし、受注者側は「そんなことはやってくれるな!」という姿勢でした。また、環境アセスメントの実施要綱ではレッドデ−タ記載種がいるかいないかを重点的に調査する程度で、統一した調査手法は何もないのが実態です。
世間には専門の環境アセスメント会社というのもありますが、営利目的の調査会社が依頼者に対して不利になるような報告書を書くはずもなく、業績を上げるためには、報告書の最終取りまとめ者の意見次第で調査内容の骨抜きが可能であり、発注者の意に添った報告書が多いのではないかと思います。特にコクドのように法の抜け道を知り尽くしている大企業は小刻みの開発をやれば全く問題にならないことを知っているわけです。
急傾斜地を皆伐し、ゲレンデなどの半裸地化工事をすればどんなことになるのか百沢の例を見ればその危険性は容易に想像できます。また、景観上も問題です。
一方、現状の環境アセスメントの実施要綱は、前記の開発規模による除外規定(50ha未満)など盲点や抜け道が用意されており、今回鯵ヶ沢スキ−場におけるコクド方式のような開発業者には何らの抑制効果も無いようなザル法に過ぎないように思われます。リゾート法と開発のあり方
岩木山山麓の鯵ヶ沢スキ−場もリゾ−ト法がきっかけで、広大な国有林がタダ同然の低料金で貸付処理されているものと思われます(今回拡張された大鳴沢コースとそれに付帯する管理道で約97万円)。1民間企業の索道業に広大な国有林(イヌワシ、クマタカ、ツキノワグマ、クマゲラ、ニホンザリガニなどの貴重野生生物の棲息圏)が提供されなければならない理由が私には理解できません。
リゾ−ト法に基づいて開発された各地のスキ−場などのうち、地方自治体も出資した第3セクタ−方式の場所では倒産の運命をたどったところもあると聞いております。
私もかつては林野庁関係の職場におりましたので、戦後植えられた広大なカラマツ造林地(「カラマツ先枯れ病」などの大発生と用材価値の低下などによるお荷物的存在)の活用策としてはスキ−場の開発などの是認もできると考えておりました。しかし、それがエスカレ−トして岩木山北西斜面のようなきわめて自然度の高い貴重なブナ林が伐採されるとなれば反対せざるを得ませんでした。
今回、コクド側が拡張工事を強引に急いだ背景には青森県知事が誘致を表明し、開催都市契約に署名した冬季アジア大会の主会場を鯵ヶ沢にするという密約があるのではないかとも言われております。そのためには競技細則の基準を満たすような斜度のゲレンデが必要なのではないかとも言われております。
青森県の活性化のために、スポ−ツ立県宣言などを行ったイベント好きの木村知事が考えたのはワ−ルドカップの開催地に手を挙げることだったのですが、選から漏れてがっくりした知事に持ちかかった話がJOC筋(堤氏)からの冬季アジア大会の誘致だったようです。そしてその主会場を鯵ヶ沢にする密約がなされたのではないかと噂されており、今後の動向が気になります。こうした政治的背景も重なり、何が何でも強引に拡張工事を強行する結果になったようです。
今回の鯵ヶ沢スキ−場の拡張工事は単なる1企業の開発行為ではなく、企業側と行政が結託した取り返しのつかない自然破壊がこのような背景のもとに行われたものであることを指摘したいと思います。
またこの開発は、単に一地方におきた事件ではなく、リゾート法制定時における政治的な背景、法の盲点を作らせ、その抜け道を利用するコクド流開発方式、物ねだりの地方行政、林野管理のあり方、環境アセスメントのあり方など、複数の問題点が浮き彫りにされたと感じています。(青森市 五十嵐正俊)